Let It Beの「let」


今日、三田で行われた「ベーシックイングリッシュ学会」に行って来ました。ネットでビートルズの「Let It Be」を検索していたら、たまたまヒットしたサイトで、この学会で「Let It Be」をテーマにした講演があることを知ったわけです。

ベーシックイングリッシュ(Basic English、以下BE)とは、1930年に言語学者のオグデンによって提唱された、850の英単語とその用法です。名前だけは知っていましたが、同学会のHPに詳しく載っていて大変勉強になります。

今回の講演では、早稲田大学名誉教授の牧雅夫先生によって行われました。まず、「Let It Be」の前に、アルベール・カミュ(タレントのセイン・カミュの大叔父)の「異邦人」の英文訳と、日本語訳(窪田啓作氏と宮崎嶺雄氏によるもの)を対比して、「let」が出てくる英文に誤訳があったことをお話しされました。英文では、

・Then the Arab let himself sink back again

だったのが、日本語訳では「後ずさりして行った」となっていました。この文の場面は、the Arab(登場人物のアラビア人)が、寝転がっていた体をいったん起こし、また横になったという部分なので、「後ずさり」が間違いということでした。

そもそもこれは、「let」を「〜させる」とだけしか認識していないことによって起こる間違いの例でした。「Let it be」の意味も、「it」は漠然とした状況をさすので「なすがままに」となります。続けて牧先生は、この文と同じような構文(H.E.パーマーの文法書に載っている)を引用されました。それは、次のようなものです。

・Don't be so unkind. Let the poor dog be.
(そんなにいじめるな。かわいそうな犬を、そっとしておいてあげなさい)

つまり、「〜させる」のではなく、「何かをある状態のままにしておく」という意味合いも持っていることを理解しないと、「Let It Be」が本当に理解できたことにはならないというご説明はよくわかりました。

また、やはりビートルズの曲にもある「Don't Let Me Down」も「僕をがっかりせないで」というよりは、「僕を裏切らないで」というニュアンスであることもお話しされました。「let〜down」の反対語は、「keep〜up」で、車のクラッチペダルの例で説明して頂きました。さらに、

・Let me do it.

が、「私にそれをやらせて下さい」という意味なのに対して、

・Make me do it.

と、「let」の代わりに「make」を使うと、「やらせられるものなら、やらせてみろ」という意味で、パラフレーズすると「I'll never do it」ということでした。

他にも、「This is what it says in her letter」の「this」は、「これから述べること」で、「that」になると「今述べたこと」や「第3者が述べたこと」という意味になることも、初めてわかりました。

いろいろと興味深いお話しが聞けてよかったです。牧先生、ありがとうございました。

午後は、意味論や高等数学の観点からBEを論じた発表や、GDM*1による教授法の実践と報告がありました。小学校に英語が導入されるにあたっての問題点や、実際の授業にGDMをどう取り入れるべきかの議論なども活発に行われました。

今回、とても勉強になりました。皆様、ありがとうございました。また機会があれば、ぜひ参加いたします。

*1:Graded Direct Method、詳細はGDMのHPを参照。